最高裁判所第三小法廷 昭和43年(あ)472号 決定 1969年10月31日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人青柳健三本人の上告趣意第一点は、単なる法令違反の主張であり(破産法三七四条一号所定の行為と破産宣告との間に因果関係を要しないとした原判断は相当である。)、第二点は、事実誤認の主張、第三点は、単なる法令違反、事実誤認の主張、第四点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
同被告人の弁護人中村登音夫名義の上告趣意第一点について。
債務者が破産宣告の確定に至るべきことを予知ないし認識しながら、あえて破産法三七四条所定の目的をもって、同条一号の「破産財団ニ属スル財産ヲ隠匿、毀棄又ハ債権者ノ不利益ニ処分スルコト」は、債務者の全財産を確保して総債権者に対する公平かつ迅速な満足を図ろうとする破産制度の目的を害するものであるから、法は、破産宣告の確定を条件として、これに刑罰を科することとしたものである。同号の行為は、普通、一般に破産原因をひき起こす性質のものであるから、その行為と破産宣告との間に事実上の牽連関係があれば足り、その間に具体的な原因結果の関係まで必要としないものと解するのを相当とする。
原判決によれば、被告人は、債務者の代表者である原審相被告人青柳弘一らと共謀しまたは単独で、債務者が破産宣告の確定に至るべきことを認識予知しながら、破産法三七四条所定の目的をもって同条一号の行為を行なったもので、その行為と破産宣告確定との間に因果関係が認められるというのであるから、同条の罪の成立を免れることはできない。
所論は、叙上の説示に反する独自の見解を前提として、憲法三九条違反を主張するものであって、その前提を欠き、その余は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。
同第二点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
被告人小沢三男の弁護人上野久徳の上告趣意第一点、第二点は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)